草稿 #12

崩落した壁。破られた膜。盛り土をも越えて、私を責める。だれが知ろうが知るまいが、私に下された決定は遂行される。八百万の神であろうとも世界に生まれた時、細い糸で紡がれた身である自己に、対抗する余力は残されてはいないのだ。空虚、あるいは真空に立ち向かう。無いところに剣を立てる。切り裂く。いかに世界を分断させることができるのか。永遠に続く回廊。

草稿 #11

孤独に耐えられないからこそ、己の内から出ようとはしない。幾重もの膜は、他の作り出したものであろうが、もう決して彼の力では破れなくなってしまっているのだ。言葉が記号に変化するとき、私はもう自失しているのか?悠然と眠る老女の傍で、私は不安に陥る、世界を論証するのではない。ただ救いというものが何であるのか探っているのだ。暗中で私はさ迷っている。何ものの光もなく、気配もなく、獣を捕らえるための罠のようなものもない。ただ拡がっている太陽なき地平をウロウロとさ迷っているのだ。裏切り、私は多くを裏切った。ゆえに苦難している。因果は応報にして難い。怖れ、何者の庇護も受けられなくなったとき、私は身を捨てることができるのだろうか。離脱、精神の統合、この相反する状態から遷移し、新たな身体へ移ることは可能であろうか。神話的文脈から産まれた数々の神が、たとえ一瞬でも、一ところへ集まったことなどないではないか。呼吸困難に陥ったとき、助けは遠かった。様々な薬剤も簡単には効果を表さなかった。精神による混乱は、果たして回復に辿り着けるのだろうか。私は間違っている。誰も責めはしないが、私は罪を犯している。お天道様はお見通しだ。ゆえに私には誰も声をかけない。寄らない。集落に作られた法に則って罰が下される。罰によって私は失われる。弱きゆえに許されていただけだ。たくさんの間違いを犯した。私の涙は薄汚い、汚れている。黒く錆びついた魂は清められることはない。世界の法則は非情だ。

草稿 #10

ひよりひよりと受け流す。鎮痛薬に頼る日々、遠ざかるように世界を去ることは存外に難しい。易々と許されはしないのだ。どんよりと曇った空は太陽から身を守ってくれてはいるが、太陽の恵みは遮られたままだ。悪意のある粒子を潰すのだ。粉砕するのだ。砕け、砕け、世界を開くのだ。忘我の境地に身を移すのだ。秋になれば秋桜が咲く。キンケイ菊は枯れ、また種を落とす。私はただ朽ちるのみ。何も落とさず朽ちるのみ、後悔も結局はこの道しかなかったのだと諭されるのみ。無痛、無苦、無病、無死、頭の混乱、吐き気、全てが己の在り難さを告げる。何に寄っても安定を得られないとき、絶望するのだ。なだらかな坂道を上るというのでもなく、斜面をゆっくりと落ちていくわけでもない。私は代わりのものが、本物でないことがわかるがゆえに、本物が手に入らないことを覚る。雨の中を走る自転車は、素裸の私を取り戻させる。一つの境界の内にある内臓が熱を孕んでいること、熱をもつがゆえに意識が存在することを教えてくれる。分厚い壁で守られている書庫の中に眠るのは、時間に蝕まれていく過去である。何の世界とも繋がらない孤立を、語る相手のいない孤独を、むき出しの絶望を燃やして灰にするしかないのか。なんとか日々を食いつないでいくこと、年老いた母を養っていくこと、これ全てが不具の者には荷が重かった。公平に訪れる死神に世界は揺らいだことがない。それが人の世の法から外れることであっても、仕方なく生きていくためには選ばなければならない時だってある。法則には例外があるのだ。簡単にはいかない。

ほの暗い光


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静かな海原の砂底に住むエビは

身を隠し、流れを待つ

 草陰で 待つ

何も持たず  待つ  生きるために待つ

 

彼の光とは  何か、

長年の     血脈のうちに失われた眼

彼の見る光とは 何か

動き続ける世界  で、 動かずに

 

 

草稿 #9

私には絶望が待っている。孤独が待ち受けている。弱さゆえにいつも脅えている。言葉さえも自由ではない。隠喩さえも浮かばない。そんな余裕も知恵もない。ないのだ、持ち合わせていない。絶望、退路は断たれ、前方も崖である。形に囚われてはだめなのだ。無形が優れているわけではない。自然とは形はあるが、無形なのである。私は雨を見るが、雨を知らないのだ。ましては太陽を知るわけがない。救われない。その嘆きも形ないものだから、誰も救うことはできない。逃走の果てに見出したのは果てしない死である。どこにも居場所がない。流れていくこともできず、拒絶、孤立電子対。肉体をえぐり取られ、私は解体される。言葉は私を救わない。なぜゆえに、彼は行き、やってくるのか?私は行くことはできない。向かうこともできない。何故ゆえに精神の不具なのか。誰も私の知るところではなくなったとき、私はどうするだろう。誰も振り向かない。私の世界に誰も興味を示さない。暗夜、私は漂うブヨ。誰か助けてください。雨の中を泳ぐ鳥。小瓶に入った毒薬。小さな呼吸に小さな鼓動。絶望とともに繋がれる命。バラバラに千切られた声明は意識を保つことはできるのか。人は一つの意識の中で右往左往する。乖離することなしに多数の自己を持つことはできない。合一性、不適格な能力。それらすべてが一人の現実を蝕んでいく。私は私であることができない。世界に孤独で産まれたとしても、それを不幸と呼ぶのか?苦しみは常に隣合わせだ。痛みは己が生きていることを思い返させる。しかし、それは生からの逃避も浮かび上がらせる。痛みは何故にここまで進化したのか?

草稿 #8

求心するエネルギーは黒い穴に通じている。糸が垂れてもその糸を信じられない者もいる。しかし、死が眼前にあれば、だれもが豹変するでだろう。アウシュヴィッツ。過剰なものが世界を救うのか?(脱出するためには究めることだ)空腹に耐えながら歩き続けどもたどり着けなかった時、果たして超越できるのか。もの言わぬ子、空想しかできぬ子らは誰が救うのか?生きている世界で髪を求める。天と地を求める。不条理ゆえにルールを定める。一定の、あるところで線を引く。流れゆく中で失われた自己を取り戻す。一体となって世界を取り戻す。子らの見ていたものは何か。幻想と産まれた空想は戯れ、輪を成す。夢游するようにするように魂ー意識を解放させ、外界との融和を試みるのだ。合一。語るべき言葉のない世界へ並行して泳ぐものが、彼の孤独を埋める。そこに神が必要ないと言えば、神は存在しないことへの道となる。並行して彼とある。体温が上昇する段階で寒気がするのは、対称する己に奪われるからである。対称が己/彼なら果たして世界ー風景は鏡面構造を成しているのだろうか。有り様のない心象を果たして映像として具現化できるのか。夏の暑さが失われてくる秋の夜に、熱情も失われるのだろうか。朽ちていく家に住む者は、朽ちてゆく己の細胞とともに精神も衰えていくのだろうか。