草稿 #10

ひよりひよりと受け流す。鎮痛薬に頼る日々、遠ざかるように世界を去ることは存外に難しい。易々と許されはしないのだ。どんよりと曇った空は太陽から身を守ってくれてはいるが、太陽の恵みは遮られたままだ。悪意のある粒子を潰すのだ。粉砕するのだ。砕け、砕け、世界を開くのだ。忘我の境地に身を移すのだ。秋になれば秋桜が咲く。キンケイ菊は枯れ、また種を落とす。私はただ朽ちるのみ。何も落とさず朽ちるのみ、後悔も結局はこの道しかなかったのだと諭されるのみ。無痛、無苦、無病、無死、頭の混乱、吐き気、全てが己の在り難さを告げる。何に寄っても安定を得られないとき、絶望するのだ。なだらかな坂道を上るというのでもなく、斜面をゆっくりと落ちていくわけでもない。私は代わりのものが、本物でないことがわかるがゆえに、本物が手に入らないことを覚る。雨の中を走る自転車は、素裸の私を取り戻させる。一つの境界の内にある内臓が熱を孕んでいること、熱をもつがゆえに意識が存在することを教えてくれる。分厚い壁で守られている書庫の中に眠るのは、時間に蝕まれていく過去である。何の世界とも繋がらない孤立を、語る相手のいない孤独を、むき出しの絶望を燃やして灰にするしかないのか。なんとか日々を食いつないでいくこと、年老いた母を養っていくこと、これ全てが不具の者には荷が重かった。公平に訪れる死神に世界は揺らいだことがない。それが人の世の法から外れることであっても、仕方なく生きていくためには選ばなければならない時だってある。法則には例外があるのだ。簡単にはいかない。