草稿 #16

重たい頭を抱え思考する時間は言語的になりがちである。結び合う子供の欠落の縫合は、表面を癒着させることで行われる。癒着はいびつな傷跡を残すが確実に結合を果たす。横断的に思考を時間で測るなら断絶的な生物的死によって我々は必ず途上で身を捨てられる。千切りのような裁断があきらかにするものー緩慢な思索と現実。市民権を持たない者の生活の連続性の無さー不連続な有り様、悪意無きマジョリティの残酷さに向けられるアレルギー的ショックーアナフィラキシー症状。うすら暗い部屋の中で起こりうる停電。打ち捨てられた光源なき世界。あまりにも貪欲な母。歯止めの効かなくなった購買欲。双極性的気質。

草稿 #15

 層と線ー遠くから見れば線にしか見えなくても近づけば層になる



集団を作ることによって個を支配しようとする試みは、少年期によく見かけられる。個と個では大きな違いは現れなくても、集団ー徒党を組むことで優位に立つのである。マイノリティは個である。徒党はマジョリティの一歩である。憎悪が集団になると機械が動き出す。巨大兵器となり侵食を始めるのである。

草稿 #14

 元々、存在していないのである。私の言葉などというものはない。創造的な活動ではない。ただインプットをアウトプットするだけ。線形である。多相ではなく単相。秋の虫の鳴き声は、多相を織りなす。悠久の永久凍土も徐々に崩れていく。時間というものと存在しているものは動き続ける。永遠の停止から永遠の運動へ移った瞬間、私達は産まれた。

 突然の発生、光の侵食、闇を追い払う者、色付き始めた秋の葉のように宇宙は様相を変えていく。次元が増えるごとに自由度が上がっていくように私たちは3次元を超えなければならない。失われたものよりも多くのものを獲得するのである。理解できない答えを発する者に対して、それを受け流すこと、一旦すべてを受け入れて、己の間違いに気づくまで待つのである。中断、突然の割り込み、不吉を感じさせる到来。可能であることと不可能であることの断絶を理解しない者たちは、蹂躙している意識がない。言葉一葉でマイノリティが窮地に立たされることを理解できないのであろう。弱り切った脳が、行動をさえぎることさえ理解していない。薄暗い雲が壁となって、光を遮る。灰色のスケールは、不安を提起する。乱れ、雲の中で、地上との不和と調律が生み出す乱れが、閃光を放つ。閃光の線、乱れた雲、力能は空と地、海をつなぐ。殺せばいいのか。雷撃は破壊と生成を生む。破壊はいみじくも現在であることを表している。

草稿 #13

少しずつ失っていく、少しずつ死んでいく。果たしてこの道は続いているのか。それとも突然なくなってしまうのか。突如道に怪物が現れるかもしれない。無意識に自失は進み、さらに目の前の怪物に肉体を裁かれる。感覚の悪化、無感覚ではなく壊疽していくような苦しみ、懊悩、嗚咽、痛覚が己を支配していき、ありもしないものが現れる。幻影、ファントム。舞台装置が動き出す。孤独のうちに分断された箱の中で声は発せられる。届くものは振動の系譜、歴史の及ばない人生のうちに、私は積み重ねてきたものを手放す。エトスの更新は破たんする。ほどけてしまった戒律から見えてくる元素、全体と原子の視点の移動、フラッシュバックのように移り変わる像に果たして視力がついていけるのか、様相の生み出すものは開闢のためのイマージュである。双頭の鳥は4つの目で世界を見ることによって人間の持たない高次元の世界に触れる。犬、猫、鹿、猪などの動物における世界はそれぞれ違う。私は私の視点しかしらない。あとは想像するのみである、ある器官からある器官へと移る様相を私は知らない。

草稿 #12

崩落した壁。破られた膜。盛り土をも越えて、私を責める。だれが知ろうが知るまいが、私に下された決定は遂行される。八百万の神であろうとも世界に生まれた時、細い糸で紡がれた身である自己に、対抗する余力は残されてはいないのだ。空虚、あるいは真空に立ち向かう。無いところに剣を立てる。切り裂く。いかに世界を分断させることができるのか。永遠に続く回廊。

草稿 #11

孤独に耐えられないからこそ、己の内から出ようとはしない。幾重もの膜は、他の作り出したものであろうが、もう決して彼の力では破れなくなってしまっているのだ。言葉が記号に変化するとき、私はもう自失しているのか?悠然と眠る老女の傍で、私は不安に陥る、世界を論証するのではない。ただ救いというものが何であるのか探っているのだ。暗中で私はさ迷っている。何ものの光もなく、気配もなく、獣を捕らえるための罠のようなものもない。ただ拡がっている太陽なき地平をウロウロとさ迷っているのだ。裏切り、私は多くを裏切った。ゆえに苦難している。因果は応報にして難い。怖れ、何者の庇護も受けられなくなったとき、私は身を捨てることができるのだろうか。離脱、精神の統合、この相反する状態から遷移し、新たな身体へ移ることは可能であろうか。神話的文脈から産まれた数々の神が、たとえ一瞬でも、一ところへ集まったことなどないではないか。呼吸困難に陥ったとき、助けは遠かった。様々な薬剤も簡単には効果を表さなかった。精神による混乱は、果たして回復に辿り着けるのだろうか。私は間違っている。誰も責めはしないが、私は罪を犯している。お天道様はお見通しだ。ゆえに私には誰も声をかけない。寄らない。集落に作られた法に則って罰が下される。罰によって私は失われる。弱きゆえに許されていただけだ。たくさんの間違いを犯した。私の涙は薄汚い、汚れている。黒く錆びついた魂は清められることはない。世界の法則は非情だ。

草稿 #10

ひよりひよりと受け流す。鎮痛薬に頼る日々、遠ざかるように世界を去ることは存外に難しい。易々と許されはしないのだ。どんよりと曇った空は太陽から身を守ってくれてはいるが、太陽の恵みは遮られたままだ。悪意のある粒子を潰すのだ。粉砕するのだ。砕け、砕け、世界を開くのだ。忘我の境地に身を移すのだ。秋になれば秋桜が咲く。キンケイ菊は枯れ、また種を落とす。私はただ朽ちるのみ。何も落とさず朽ちるのみ、後悔も結局はこの道しかなかったのだと諭されるのみ。無痛、無苦、無病、無死、頭の混乱、吐き気、全てが己の在り難さを告げる。何に寄っても安定を得られないとき、絶望するのだ。なだらかな坂道を上るというのでもなく、斜面をゆっくりと落ちていくわけでもない。私は代わりのものが、本物でないことがわかるがゆえに、本物が手に入らないことを覚る。雨の中を走る自転車は、素裸の私を取り戻させる。一つの境界の内にある内臓が熱を孕んでいること、熱をもつがゆえに意識が存在することを教えてくれる。分厚い壁で守られている書庫の中に眠るのは、時間に蝕まれていく過去である。何の世界とも繋がらない孤立を、語る相手のいない孤独を、むき出しの絶望を燃やして灰にするしかないのか。なんとか日々を食いつないでいくこと、年老いた母を養っていくこと、これ全てが不具の者には荷が重かった。公平に訪れる死神に世界は揺らいだことがない。それが人の世の法から外れることであっても、仕方なく生きていくためには選ばなければならない時だってある。法則には例外があるのだ。簡単にはいかない。